ふじのくに若い翼プラン-第4期静岡県子ども・若者計画-
に意見書を提出しました
令和4年2月6日
静岡県 教育委員会 社会教育課 青少年指導班 御中
ふじのくに若い翼プラン-第4期静岡県子ども・若者計画-の計画案についての意見書
法人名:NPO法人バーチャルライツ
代表者氏名:國武悠人
本年新たに策定される「ふじのくに若い翼プラン-第4期静岡県子ども・若者計画-」につきまして、計画案第55項における「5.2.2 ネット依存や依存症等への対応」のうち特に「5.2.2.1 ネット依存への対応」に対する当法人としての意見書を提出いたします。
第1意見
該当項における「ゲーム障害・ネット依存傾向のある」という記載や、「『ゲーム障害』の疑いがある本人に対して」という記載につきまして、「傾向」「疑い」という医学的知見に基づく判断が極めて難しい文言で表記されている点に意見を申し上げます。
同項の「WHO(世界保健機関)により『ゲーム障害』が精神疾患として採択されたことを踏まえ」との記載は、ICD-11における”Gaming Disorder”を指すと思われますので、御庁としては「ゲーム障害」についてはICD-11での定義づけに基づき対策等を講じる立場を採るものと考えられます。したがって、ある状態をゲーム障害と認定するにつきまして、ICD-11上の”Gaming Disorder”という精神障害の要件として、精神的な兆候(ゲームに対するコントロールの障害など)にとどまらず、長期間にわたる社会的機能に関する苦痛・障害が存在することが必須となります。
上記のような判断基準に基づくべきである一方で、該当項において「傾向」「疑い」という水準の文言を計画レベルで記載すると、ICD-11上の定義に該当しない子供や若者等に対して、医療行為或いは支援と称して当該子供・若者等への強権的な干渉を行う危険性が考えられます。併せて、ゲーム障害がICD-11に含まれた一方で、未だその明確な科学的裏付けが存在していないことが参議院での厚労省答弁でも明らかである¹点を鑑みると、やはり名ばかりの規制活動や必要以上の私生活への介入が危惧されると言わざるを得ません。
よって、「疑いがある」や「傾向のある」といった曖昧な文言を用いて各種施策に広く判断の裁量を与えるのではなく、世界保健機関の採択した定義を基準に、あくまで当該要件に合致する場合に医療的支援を行うべき旨が伝わるような確定的・断定的な表現に改めるべきと考えます。
なお、「ネット依存」についてはICD-11には存在せず、上記「ゲーム障害」以上に定義が明確ではないため、各種ワークショップ、システムや支援プログラムとされるものが医学的に適切か否かの判断が実質的に不可能になります。そのような状況下で県独自の企画を多数走らせることは、同計画の基本理念である「有徳の人」に必要とされる能力感性等の向上の妨げにもなりうるため、各種施策についても極めて慎重な企画・実施をするよう留意すべきである旨、意見として付記いたします。
第2意見
該当項記載の計画について、上部の「正しく安全なネット利用の促進を図るとともに」との記載にあるように、あくまでインターネット等の利活用を前提とした啓蒙活動を通して「ゲーム障害・ネット依存」を回避改善しようとする御庁の施策の方針自体は、インターネットを社会・経済活動において必須のツールとし、その重要性と利点の拡大について言及する「子供・若者育成支援推進大綱」²の意図を適切に汲むものであり、評価できる部分も存在します。
一方で、同項に「子どもたちのスマートフォンの所持率の上昇や、ネット利用の低年齢化が進み、子どもたちのメディア接触時間の増加が懸念される」³と記載のあるところ、この点につき意見を申し上げます。
スマートフォン所持率の上昇やネット利用の低年齢化は、「子供・若者育成推進大綱」においても「子供・若者のインターネット利用時間は年々増加し、低年齢化も進んでいる」という形で表現されている内容ですが、それ自体を県をあげて解消すべき問題と捉えるべきではありません。
例えば、電子商取引の市場規模が2005年と2019年を比較すると5倍以上の規模の拡大が見られる⁴、世帯のスマートフォン保有率が8割を超えるようになった⁵、といった現状ではありますが、これは多様なツールや考え方の拡大普及を背景とする「統計上の事実」として評価すべきであり、また、そもそも一時の娯楽としてのゲームと、ビジネスやコミュニケーション手段として日常生活に必要なインターネットを厳密に区別することは不可能である以上、インターネットの利用時間の増加や、「スマートフォンの所持率の上昇」「ネット利用の低年齢化」それ自体が懸念すべき事象ではないことは明らかです。
先述しました通り、御庁の計画がインターネット利活用を前提としたものである以上、上記の様な世間の潮流を無視する意図はないかと思われます。したがって、「懸念」という対象を憂う意味を持つ表現ではなく、上記の状況を事実として受け止めるにとどまる表現に改めて各施策を丁寧に方向づけることで、より一層本計画全体の目的達成に寄与するものと考えます。
併せて、方向づけるにとどまらず各施策の具体的な進行においても、安易に規制を推進する手段(家庭内でのルールに積極的に介入することも含む)によることなく、インターネット利活用を前提として依存対策を講じるという理念が反映されるべき旨、意見として付記いたします。
1第204回国会 参議院 内閣委員会 第4号 令和3年3月16日 政府参考人赤澤公省君回答より
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120414889X00420210316/75
「ゲーム依存、ネット依存、スマホ依存についての発症のメカニズムは現時点で確立した科学的知見は承知しておりません。」
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120414889X00420210316/77
「ゲーム依存、ネット依存、スマホ依存について、現時点で治療、予防に関する確立した科学的根拠、科学的知見は承知しておりません。今後、これらの発症のメカニズム等の解明につなげるよう、更なる研究により科学的知見の集積を図る必要があると考えております。」
2内閣府ホームページ「子供・若者育成支援大綱」第9項より
https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/pdf/r03-taikou.pdf
3内閣府ホームページ「子供・若者育成支援大綱」第9項より
https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/pdf/r03-taikou.pdf
4総務省ホームページ 令和3年「情報通信白書」より
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd102200.html
5総務省ホームページ 令和3年「情報通信白書」より
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252110.html
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