香川県に意見書を提出しました。

NPO法人バーチャルライツは7月28日、香川県の教育基本計画に関するパブリックコメントに対し意見書を提出いたしました。
9月ごろに香川県から報告される運びとなっています。

以下原文

要約:現状の香川県教育基本計画は、近年の技術的動向及び、子供・若者の実態を反映しているとは言い難く、その施策は教育基本法第1条に定められる「教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」という目的に反しているものであり、多くの改善すべき点を有している。


本文:

2子どもたちを取り巻く現状(1)子供たちの現状

「いじめ、暴力行為等問題行動と不登校、ネット・ゲーム依存について」に関して


内閣府の「子供・若者の意識に関する調査」によると「インターネット空間」が居場所の1つとなっている子供・若者は56.6%おり、これは「学校」が居場所だと答えている48.1%より多い。また、内閣府の「子供・若者白書」によれば、「居場所(自室、家庭、学校、地域、職場、インターネット空間)の多さと自己認識の前向きさは、概ね相関。」とされており、居場所の1つを構成するインターネット空間を必要以上にネット・ゲーム依存と結びつけ、子供・若者の自己認識を後向きにさせるような施策は教育基本計画として不適切である。また、そのような施策が、インターネットという子供・若者の居場所が減ることに繋がれば、内閣府の「子供・若者白書」にある「居場所が少ない人ほど、困難な状態が改善した経験が少なく、支援希望や支援機関の認知度等も低い傾向がある。」という記述の通り、子供・若者の健全な育成の達成を阻害する可能性が極めて高い。また、そもそも「いじめ、暴力行為等問題行動と不登校」といった非行行為と環境的要因が大きく絡む「ネット・ゲーム依存」を同列に記述すること自体が不適切である。


また、該当章において「スマートフォン等の利用に関する調査(香川県)」がデータとして提示されているが、質問内容の「②問題から逃げるために、または、絶望、罪悪感、不安、落ち込みといったいやな気持から逃げるためにネットを利用する」に関しては、そもそもの「問題・絶望・罪悪感・不安・落ち込み」を子供・若者たちが感じる環境こそが問題なのであってそれを解消するためのツールの1つであるネット等に責任を転嫁するのは問題の本質的解決になっていない。「⑧満足を得るために、ネットの利用時間をだんだん長く したいと感じる」に関しては、日本国憲法第13条に定められる幸福追求権の一つとして認められるべきものであり、依存予防対策の根拠としては不足である。


2子どもたちを取り巻く現状(3)家庭や地域「家庭や地域の教育力」に関して

該当章では、「子どものテレビ・ゲーム・ネット等、メディアの利用などが対する悩みの度合いが高くなっており、保護者への支援が課題となっている」という旨の記述がなされているが、ネット等での居場所が悩みの解決に繋がることが内閣府の「子供・若者白書」によって示されているため、ネットなどは悩みの原因だけではなく解決にもつながる旨の記述を強く求める。


(1) 生涯学習の現状

生涯学習において、「学校などのウェブサイトや講座情報の検索サイト」が28.8%を占めている通り、ネットの情報は生涯学習において非常に重要なものである。


(2) 子どもの読書活動の現状

該当章は、「子どもの読書活動に関する部分については、子どもの読書活動の推進に関する法律第9条第1項の規定に基づき定める子どもの読書活動の推進に関する施策についての計画」に基づいているとされているが、子どもの読書活動の推進に関する法律第2条の「子ども(おおむね十八歳以下の者をいう。以下同じ。)の読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものであることにかんがみ、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない。」という基本理念に反していると言わざるを得ない。教育基本計画内では、「家庭や学校、公立図書館、地域のボランティア団体が連携し」と記述されているが、ネット上での読書推進活動も教育基本計画に取り入れるべきである。平成30年度の文部科学省の「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」によると電子書籍の利用率は、2割を超えている実態が明らかになっている。そのような現状において、ネット全般の規制を推進するような教育基本計画は不適切である。電子書籍の有効活用やネットの有意義な利用方法に関する記述を求める。また、バーチャルリアリティ技術によりVR空間内でも読書を行う取り組みが行われつつある。そのような中で、このような記述を行うのは技術的動向をあまりにも無視していると言わざるを得ない。


重点項目2 心の育成 課題 について

該当章において、「本県においては、とりわけ学習やさまざまな活動への意欲のもととなる自己肯定感・自己有用感が全国より低い傾向にある」という旨の記述があるが、その原因は「ネット・ゲーム依存」に関する条例、及びそれに関連する思想等が影響していると考得られる。内閣府の「子供・若者白書」によると「居場所(自室、家庭、学校、地域、職場、インターネット空間)の多さと自己認識の前向きさは、概ね相関。」とされており、香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」の立法及び、その立法が行われるような社会情勢が悪影響を及ぼしている可能性は明らかである。


同章の、「同和問題をはじめ障害者や外国人、LGBT等の人権課題の学習に取り組むこと によって、多様性を尊重する人権教育を推進する」という点は評価するものの、「人間としてよりよく生きるための基盤となる社会性や道徳性を養うとともに、優れた文化や芸術にふれることで、感性を磨き、豊かな情操を培う」という旨の基本的方向を実現するに当たり、インターネット及びVRを始めとする最新技術の活用は欠かせないものであるから、この点に関する記述を強く求める。



重点項目 2 心の育成 基本的方向 2 共感的理解に基づく生徒指導の充実 取組みの内容 ③ インターネットの適正利用とネット・ゲーム依存予防 対策の推進 について


該当章では、「スマートフォン等の利用に関する家庭でのルールを作っている割合は、県の令和2年度スマートフォン等の利用に関する調査では小学校4~6年生で約93%、中学生約80%、高校生約50%であり、いずれも前回の平成29年度調査と比べて増加していますが、学校段階が上がるにつれて低くなっており、より一層の推進が必要です。」とあるが、2022年4月1日より「民法の一部を改正する法律」が施行され、18歳より成年となり高校生の一部に行為能力が認められる。本計画は当該法改正施行後にも適用されるものであって、当該法改正によって一部の高校生において行為能力が認められ、父母の親権に服さなくなるということだが、それでもなお家庭内でルール策定が必要だと主張し、行為能力よりも高度な判断能力を要求されないレベルの判断能力で足りるスマートフォンの利用に対して規制をかけることは、社会通念に照らし不適当と言わざるを得ず、世間・世論の流れを無視した、行政にあるまじき不当な行為だと言わざるを得ない。


また、同章において「令和元年5月に、世界保健機関において、「ゲーム障害」が正式に疾病と認定されたように、インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用によるネット・ゲーム依存が問題となっています。令和2年4月には「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」が施行され、学校等においても予防対策の推進が求められています。」と記載があるが、そもそも「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」の定める「ネット・ゲーム依存症」の定義(同条例2条1号)は世界保健機関が定める「ゲーム障害」の定義(ICD-11)よりも対象範囲が広く、また、世界保健機関の定義では「ネット依存症」に対して一切の記載がない。よって、当該条例及び該当章に記載のあるような「ネット・ゲーム依存症」と世界保健機関が定める「ゲーム障害」を同一視するということは不適切というべきであり、当該記載はその主張の前提を欠くため不適当である。


「「学校現場におけるネット・ゲーム依存予防対策マニュアル」の活用などによる予防対策の実施や、依存傾向にある児童生徒の早期発見、早期対応」とあるが、先に述べたように香川県の定める「ネット・ゲーム依存症」というのが世界保健機関の定める「ゲーム障害」よりも対象範囲が広いため、その医学的診断基準は非常に曖昧であり、かつ、医学的知見に基づいた適切な診断基準かどうか判断ができない。よって、当該「ネット・ゲーム依存予防対策マニュアル」が妥当であるか不明であり、当該マニュアルを用いた依存傾向の児童生徒の早期発見というのは非常に危険な行為であり、周囲の児童生徒からの差別の温床となりかねず、非常に浅慮な計画と評価するのが妥当である。