総務省研究会WGに意見書を提出しました

「プラットフォームサービスに関する研究会 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ 今後の検討の方向性(案)」についての意見募集に対して、意見を提出しました。
詳細:https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000195.html

意見書

意見本文


 このため、誹謗中傷等の情報の流通による被害の発生の低減や早期回復を可能とするためには、事業者による判断が可能な情報であれば、裁判上の法的な手続と比較して簡易・迅速な対応が期待できるという観点からも、プラットフォーム事業者の利用規約に基づく自主的な削除が迅速かつ適切に行われるようにすることが必要である。


 誹謗中傷等の情報の流通による被害の発生の低減や早期回復は必要不可欠であるものの、その具体的施策にあたっては、プラットフォーム事業者の事務的負担も考慮する必要がある。仮に、利用規約に基づく自主的な削除がガイドラインや努力義務で示されることになれば、人的資源の乏しいベンチャープラットフォーム事業者が十分に対応することが難しくなるばかりでなく、プラットフォーム事業への新規参入が阻害される可能性も否定できない。


 このようなプラットフォームを提供する事業者については、誹謗中傷等を含む情報が現に流通している場を構築し広く一般にサービスを提供していること、投稿の削除等を大量・迅速に実施できる立場にあること、利用者からの投稿を広く募り、それを閲覧しようとする利用者に広告を閲覧させることなどによって収入を得ていることなどから、個別の情報の流通及びその違法性を知ったときやその違法性を知るに足る相当の理由があるときは、表現の自由を過度に制限することがないよう十分に配慮した上で、プラットフォーム事業者は迅速かつ適切に削除を行うなどの責務を課すべきと考えられる。


 プラットフォーム事業者は、利用規約によるサービス利用者との関係性によっては必ずしも投稿の削除等を大量・迅速に実施できる立場にあるわけではないため、個別具体的な事例に合わせた責務のあり方を検討することが望ましいと考えられる。また、友人同士の誇張表現の一環として暴力的な表現が用いられることも十分に考えられることから(例:お前何のんきに遅刻してんねん殺すぞ)、「違法性を知るに足る相当の理由」の定義、例示については、プラットフォーム事業者の意見を聴取しつつ、慎重に対応していく必要があると考えられる。

 また、違法情報が何を指すのかが明らかではないが、例えば名誉棄損罪などは親告罪であり、プラットフォーム事業者に対して事前に対応することができないことは認識されるべきである。


 このようなことから、プラットフォーム事業者が当該申請等の受付に関する通知に対して返答を行うことやその全ての判断について理由を説明させること等が考えられるが、申請件数が膨大となり得ることも前提にさらに検討することが適当である。その際には、例えば、一定の要件を満たす申請があった場合に限って、申請者に対してかかる事項を通知する等の方策が実現可能かについても検討することが適当である。


 サービス利用者へのサポートを拡充させていく方向性については賛同する一方で、プラットフォーム事業者の事務的負担が過剰なものとならないよう、事業者にヒアリングを実施するなど、調査研究を推進することを提案する。また、返答については、より細かく場合分けされた定型文の活用なども検討することが適当である。そして、本来であれば権利侵害の申立を行う側に立証責任が存在する所であるため、政府として適切な申立て手法の周知を行っていくことも重要であると考えられる。



ウ裁判外紛争解決手続(ADR)

 裁判外紛争解決手続(ADR)については、憲法上保障される裁判を受ける権利との関係や、裁判所以外の判断には従わない事業者も存在することも踏まえれば、実効性や有効性が乏しいこと等から、ADR を法的に整備することについては、慎重であるべきと考えられる。

 なお、プラットフォーム事業者が、自主的に ADR 機関を創設し利用することは、妨げられないと考えられる。


 プラットフォーム事業者による自主的なADR機関創設については1つの可能性として、調査研究を今後実施する旨、及び検討の範囲に含める旨を記載することを提案する。

 また、事業者独自の取り組みをモデルケースとして収集することを提案する。例えば、大手プラットフォーム事業者であるMetaは、権利侵害コンテンツの削除判断について監督する第三者機関として監督委員会(Oversight Board)を設置している。


(3)特に青少年にまつわる違法・有害情報の問題

 違法・有害情報が未成年者に与える影響を踏まえて、未成年者のデジタルサービス利用の実態(未成年者におけるプラットフォームサービスの利用実態、青少年保護のための削除等の実施状況や機能、サービス上の工夫等)を把握したうえで、必要な政策を検討すべきとの指摘があった。この点については、諸外国における取組のほか、我が国における関連する機関や団体等における検討状況について、引き続き把握及びその対策の検討に努めることが適当である。


 対策の検討に努めるという基本方針には賛同するものの、青少年にまつわる違法・有害情報の問題については、国連決議 A/RES/76/162 [人権と文化的多様性に関する決議] 等においてグローバル化による価値観の均一化が危惧されているため、諸外国の規制をそのまま国内に準用することのないよう、より慎重な検討を行うことを提案する。


【全般に対する意見】

 当ワーキンググループでは、「違法情報」と「有害情報」なる用語が用いられているが、とくに後者はその意味が必ずしも明らかではない。総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する概要」資料によると、有害情報の例として「アダルト」「出会い系サイト」の他に「暴力的な表現」が挙げられており、このままでは、いわゆる被害者の存在しない表現(ゲームやマンガ、アニメ等の非現実表現)にも検討の範囲が及ぶ可能性がある。

 誹謗中傷を軸として議論を行ってきた中で、「有害情報」といった不明確な範囲の対策を策定するのは、機が十分に熟していないと考える。


 また、オンライン上のコンテンツを巡る議論においては、違法情報又は有害情報を投稿した者を特定することが困難であり、それゆえ、被害者による賠償(個別の救済)が困難になるだけではなく、賠償制度が抑止力として機能していないという問題がある。行為者の特定が困難である理由の一つがいわゆるIPアドレスの枯渇の問題である。このIPアドレス枯渇の問題を解決する術はIPv6の普及であるところ、プラットフォーム事業者はすでにIPv6対応をしているとされていることを踏まえれば、問題の解決は日本におけるIPv6をより一層促進することになるのではないか。オンライン上のコンテンツを巡る議論は一朝一夕で解決を見るものではないことは言うを待たないが、このIPv6の普及こそ総務省が取り組むべき点であり、この点を議論することこそが、表現の自由とそれにかかる責任のバランスを再調整し、オンライン上のコンテンツを巡る議論をより良い解決につなげるものであると考える。



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